お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~
4.恋に不安はつきもの
『――… 誰にも渡しませんよ。俺が必ず幸せにします』
帰宅した航太郎さんは、いつもスーツを片付けたらすぐに戻ってくる。
なのに昨日は、珍しく寝室から出てこなかった。
夕飯の用意ができたので、声をかけようと彼の部屋に近づいた時――
聞こえてしまった、愛の告白。
敬語だから、相手は年上の人だろうか。
独占欲を感じられる台詞。
電話でまで言うくらい、航太郎さんはその人のことが好きなのだろう。
――私だけじゃなかった。航太郎さんが、独占したいと思う女性は。
そもそも偽装夫婦なんだから、航太郎さんが他の女性を好きでいたって問題は無い。
それでなくても、政略結婚だ。
愛のない結婚に、お互いの恋愛の自由を奪う権利などない。
だから別に、気にしない。
気にならない、はずだった。
それ以上聞くのが怖くて、逃げるようにキッチンへ舞い戻った。
電話を終えて部屋を出てきた航太郎さんを避けてしまった。
嫌だと思った。
私に好きと言ったりキスしたり、抱きしめたりしておいて、本命の人が他にいたという事実が。
名前も顔も知らない女性に、言いようのない不快感と焦燥感を覚えていた。
気になるとはいえ、直接聴くことも出来ずに九月が終わった。
十月一周目の土曜日の今日、葦原家と三間家が集合し、ホテルのホールの壇上にてスポットライトを浴びる父の姿がある。
「この度は、お忙しい中――」
多くの業界人が集まる中、父が葦原不動産の社長として前に立っている。
その隣には三間グループの社長である航太郎さんのお父様もいて、私たち親族一同はステージの脇に並んでその様子を見守っている。
「お父さん、緊張してるね」
「ふふ。社長って言っても、さすがにここまでの人の前で話したことなんてないものね」
父の見慣れない姿を面白がるように小声でそう話すのは、母。
そして今ここに、親族として同期の冴木がいるのはなんとも不思議な感覚。
「翠、これ俺たちいる必要なくない?」
「そういうこと言わないの。 暇だったんでしょ」
「まあそうだけどー」
心底つまらなそうにする冴木に呆れていると、横から厳しい声が飛んでくる。
「俊也? 俺の翠と仲良くしないでくれる?」