お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~
だから私はあなたのものじゃ……と思ったけど、反抗するだけ無駄なのはわかってる。
結局姉は帰ってこないまま、この日を迎えてしまった。

「うるさいなー。兄さんは」

「翠、席交代しよう」

「嫌ですよ。この空気で立ち上がれません」

私がはっきりと断ると、航太郎さんはしゅんとして俯く。

「だってよ、兄さん。 ドンマイ!」

「冴木もうるさい!」

弟の方には最小限の声で怒鳴ると、彼もまたしょんぼりして口を噤んだ。

「それにしても、俊也くんが葦原不動産で働いていたなんて……苗字が違うから気が付かなかったわ。面接も受けたんでしょう?」

突然、母がしんみりした様子で言う。

「はい。 三間ってだけで色眼鏡をかけられるのを避けたくて母の旧姓を名乗ってますから、気づかれなかったなら本望ですよ」

聞いたところによると、なんと航太郎さんたちのご両親は離縁なさっていた時期があったらしい。
母親についていった冴木は、ご両親が復縁しても、会社には母方の旧姓で通していたとか。
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