お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~


翌日、私は社員たちから質問攻めにあっていた。
色々知ってる冴木に助けを求めるように視線を送っても、『苗字バレ嫌だから』って顔でにこにこ笑ってるだけ。
うぅ。分かってるよ。覚悟はしてたけど!

「三間グループの御曹司、三間航太郎って言ったら、ものすんごいイケメンよね!?」

「そうそう! 雑誌にも乗ったことあるって!」

皆さん…どうしてそんなに詳しいんだか。
雑誌に乗ったとかそんな話、初耳なんですけど。
でもあの容姿ならモデルもできそうだもんね。

「いいなあ。やっぱり社長令嬢ってなると、政略結婚かあ。 それで三間さん引くとか、翠さん持ってる〜」

「あ、あはは……」

きゃっきゃと楽しそうに盛り上がる女子社員に、苦笑いしかできない。

「ね、三間さんて、やっぱいいの?」

「いい…とは?」

「夜の話よ〜! テクニシャンぽいもんね!」

う、嘘でしょ……本当に聞かれちゃったよ。
女でもセクハラになりますよ、これ!
若い子怖い!

「そ、れは〜、ご想像にお任せします〜」

躱し方これで合ってる…?

「やだあ〜! いみしーん!」

楽しそうで…何よりです…。

疲れた。もしかして航太郎さんの方もこんな感じ?
彼、モテるだろうから、女子は悲鳴を上げてるんじゃ……。
漫画やドラマでよくある話よね。
モテ男子の彼女が嫌がらせされるっていう。
さすがに現実に、そんなことが起こることはないよね。


――と、思っていたんだけどなあ。

仕事を終えてマンションに帰ってくると、階段付近に見知らない女性が立っていた。
誰かを待っているような様子で、よく見るととても綺麗な顔立ちをしている。
少なくとも私には関係ないだろうと通り過ぎようとした時、予想外にも声をかけられて肩を揺らす。

「葦原…さん?」

私は振り返って、「はい」と返事をするも、この女性とは面識はないはずなので戸惑う。
すると、彼女はにこりと美しい微笑みを湛えて言った。

「初めまして。…航太郎くんと同期の、松下です。といっても、彼とは三つ離れているんですけどね。若いのに私なんかよりしっかりしていて、いつもお世話になっています」

多分、この人…松下さんは、航太郎さんより年上だ。
大人の女性の雰囲気を晒しだしている。
というか、いくら年下相手でも同期でも、上司を航太郎くんて、名前で呼ぶの?

「航太郎さんなら、ご存知かもしれませんがまだ帰ってきていませんよ」

松下さんが何をしに来たのかはわからないけれど、なんとなく早く帰って欲しいと思った。
私の中に、嫌な予感が広がっていく。
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