お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~
エピローグ
その日、私は久しぶりに実家に帰ってきていた。
とはいっても、休みに両親に会いに来たとかそんな和やかな理由ではない。
「咲希! 今までどこにいたのかと思っていたら、あなたって子は……!」
母が今にも飛びかかりそうな勢いで姉を叱咤するのを、私が抑える。
けれどそのすぐ隣では、一見大人しそうに見えるもののいつ爆発してもおかしくない父がいる。
「シンガポールにいたの。 彼とね」
姉の清々しい言葉に呆気にとられた。
父と母の心中穏やかでいられない原因は、つい昨日、この家にかかってきた一本の電話だ。
『明日、彼氏連れて帰るね』
――一ヶ月半ほど前、お見合いの日に失踪した姉からのものだった。
昨夜、航太郎さんとふたりで夕飯を食べていた時、切羽詰まったというか、怒りと悲しみと心配と安堵と…とにかくいろんな感情が混ざりに混ざった母から電話を受けた私は、昨夜のうちにここへ来ていた。
航太郎さんが一緒に行くと言ったが、彼には仕事があるので諦めてもらった。
航太郎さんがぎりぎりまで来ると言い張ったのには、姉の失踪を知っていたという事実が関係している。
母の動揺ぶりに私も焦っていたので、私のことを心配してとのことだったが、たぶん、事情を知っている自分がいたほうが姉的に良いと思ったのだろう。
姉の行動について、航太郎さんがどこまで知っているのかは、姉の話を聞くか航太郎さんが仕事終わりに飛んでくるか、どちらが先か……姉は話そうとするけれど、どうにも父も母も取り乱していて話し合いも始まらない。
その様子が逆に私を落ち着かせた。