お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~
私かて聞きたいことが山ほどある。
まず、隣にいる無駄に爽やかな青年について。
事前に、結婚を前提にお付き合いしている人で、プロポーズもされていると姉から聞いてはいる。
航太郎さんとの縁談を蹴って海外に逃亡するくらい、この人のことが好きなのだろう。
…『ご挨拶が遅れて申し訳ありません。娘さんとの結婚をお許しいただきたく――』という、模範解答みたいな言葉を父の怒声に遮られてから黙りを決め込んでしまった彼を一瞥する。
お姉ちゃんの結婚相手で、この修羅場を作り出している重要参考人なんだから、自己紹介とか挨拶とか覚悟とか、もっと聞かせなさいよ!!

と叫んでやりたいが、この場で色々聞きだしたところで余計にこじれる気がしてできない。

「…お父さんもお母さんも、少し席外して。
隣の部屋で頭冷やしててよ。 私はお姉ちゃんから話を聞きたい」

私が退出を促すと、両親は揃って席を立ち、おぼつかない足取りで、隣接する部屋へ移動した。
強引な自覚はあれど、今はこの人たちを引き離すしか解決策が見つからない。
私は改めてダイニングの椅子をひいて着席。

「…それで、お姉ちゃん。 聞かせてくれる?」

「うん。 改めて、この方、お付き合いしている、遠山晴人(とおやま はると)さん」

「初めまして。 遠山晴人と申します。今日は、娘さんとの結婚を許していただきたく参りました」

先程言えなかった言葉を、丁寧に頭を下げて私に言う。
私の娘さんではないんだけどな。緊張しているのだろう。

「妹の翠です。 すみません、その台詞は後で両親に言ってやってください」

私は苦笑を浮かべた。

「翠。ごめんね、迷惑かけて」

「……本当だよ。突然いなくなったりして、心配したんだからね!」

そうは言いつつも、私は安心していた。
元気な姿を見せてくれたのだ。
父も母も、本当はそう思っているはずだ。
ただ、予想外のお土産…彼氏を連れてくるのだから、頭が追いついてないだけ。

「でも、お姉ちゃんが幸せなら、もういいや。晴人…さん。姉のこと、どうかよろしくお願いします」

「……ありがとう、翠」

少なくとも私は、このふたりの結婚に反対はしない。
駆け落ち同然のことをしたわけだけど、親に決められた結婚から逃げるにはそうするしかなかったんだと思う。
お見合いの日の、私と航太郎さんが結婚してからじゃないと帰ってこないと思う。という航太郎さんの言葉は、そういうことなのだろう。

あとは、両親も私と同じことを言ってくれるといいのだけど。
晴人さんは目尻に涙を浮かべて、「必ず咲希さんを幸せにします」ともう一度頭を下げた。

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