運命の推し
第2話
日向の部屋で
「いい?笑子ばあちゃん」
日向は長い髪の毛を器用な手つきでお団子にまとめた。
日向の部屋。
平日、午前9時。
美加子と香奈子はそれぞれ出勤している。
美加子は近所のスーパーマーケットでレジ打ちのパートをしていて、今日はだいたいお昼過ぎに帰宅予定。
香奈子はきっと今日は遅いだろう。
勤めている会社の人と、何かの打ち合わせがあると言っていた気がする。
何の用事も無かった私は、勇気を出して日向の部屋のドアをノックした。
日向は私を部屋に入れるなり、「DVDを観よう」と誘ってくれた。
もちろん、「シー・ファンキーズ」のDVDだ。
「『シー・ファンキーズ』はファンを大切にしてくれるの。それがよく分かるのはライブなんだけど、今はライブしてないし、過去のライブDVDで我慢してね」
……ライブ。
あ、コンサートのことね?
「何年のがいい?」
日向がDVDを入れているらしい、クリーム色のボックスを探りつつ聞いてくれる。
「おばあちゃん、この間に聴いた歌がいい」
正直に言ってみた。
「この間に聴いた歌?『星の降る夜には』のこと?」
「そんなタイトルだったかしら。素敵ねぇ」
つい、うっとりしてしまう。
ひ孫の前で。
慌てて私は咳払いをする。