運命の推し
美加子と香奈子
夜。
美加子とリビングで熱い玄米茶を飲んでいる。
「母さん、日向といたの?今日1日」
美加子は湯呑みを両手で包む仕草をした。
「そうよぅ。楽しかったわー」
私はフーフーと、玄米茶に息を吹きかける。
「……何だっけ?あの、ビデオで観た子たちを、観てたの?日向と一緒に?」
「『シー・ファンキーズ』ね。……あんた、最近『あれ』とか『あの』が増えたわねぇ」
「あっ、そうそう!そんな名前!」
適当に返事していることが伝わる。
まぁ、いいけど。
「『推し』っていうんですって。私には、『推し』がいるのよ」
覚えたての言葉を使いたくなるのは、年齢に関係がないらしい。
「『推し』、ねぇー。母さん、大丈夫なの?」
「何が?」
「あんな孫よりだいぶ若い子に熱あげて。あの子、何歳なのかは知らないけれど、まだ30歳にもなってないでしょ?」
「26歳らしいわよ」
美加子は眉間にシワを寄せた。
「恋に恋する若者ならまだしも……。母さんは高齢者なのよ」
何がいけないの?
推した子が30歳だったら良かったの?
高齢者だからって、「推し」を作ってはいけなくないでしょう。
私の中で、不満が膨れていく。
……それに。