運命の推し
「あ、笑子ばあちゃん」
リビングから自分の部屋に戻ろうとしたら、香奈子に呼び止められた。
「日向、どうだった……?」
「どうって、何が?」
「何がって……、ほら、楽しそうだったとか、元気だったとか、色々あるじゃない」
香奈子は首に巻いたタオルで、髪の毛をおさえている。
「香奈子」
私は、少し厳しい声を出してしまう。
だけど、その瞬間。
言おうとした言葉が、頭の中で自分にはね返ってくる。
『もっと日向のことを見てあげなさい』
そんなこと、私が言えるわけがない。
家中できっと1番日向のことを見ていないのは、私なんだから。
「香奈子」
もう1度、優しく呼んだ。
「日向は良い子ね。イヤな顔1つせず、優大のことを何でも教えてくれるのよ」
香奈子は静かに、
「そうね」
と呟いた。
「私、あの子が好きよ」
心を込めて伝える。
香奈子は笑顔になって、こう言った。