運命の推し


恋愛映画なんて、久しぶりに観る気がする。


お父さんは恋愛ものを避けていたところがあった。

照れていたのかしら。

興味も無さそうだったわね。



交際している時も、結婚したあとも。

ふたりで行った映画館で観るのは、アクションものや、推理もの。

お父さんが選ぶ映画を、私は黙って観ていた。

だけど、楽しかったわ。


映画好きなお父さんが、映画館に近づくにつれて少年みたいにわくわくしている姿。

その姿を見られることが、私も嬉しかった。



そういえば。

1度だけ、映画のことで怒ったことがある。

長女の由紀子(ゆきこ)がお腹にいた頃だったかしら。


お父さんに連れられて観た映画。

推理ものとはいえ、ホラー要素が強くて。

私は泣きながら『こんな怖い映画だとは言わなかったじゃない!』と怒ったんだっけ。


あの時のお父さん、弱ったなぁって顔してたわね。


懐かしい。


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