運命の推し
映画を観ながら、懐かしい思い出を脳内で再生してしまった。
いけない、いけない。
話がどんどん進んじゃう。
気を引き締めていたところに、優大が画面に現れた。
「あら、優大だわ」
思わず嬉しくなる。
優大が演じていたのは、社会にうまく馴染めなくて戸惑っている青年だった。
何をやってもダメで。
ついにはアルバイトもクビになる。
落ち込んでいる青年のもとへ現れたのが、美人な女子大生。
青年は彼女に見合う人になれるように努力を開始する……。
「優大って」
日向が小声で私に話しかける。
「優大って、すごいね。もうこの役の人にしか見えないもんね?」
確かに。
あんなに堂々とステージに立っている優大が。
今は、オドオドしている青年にしか見えない。
そのあと。
青年が女子大生に、思わずキスをするシーンが流れた。
私は内心、面白くない。
日向のさっきの言葉は、このシーンがあるからだったのか、と気づく。
優しい子ね。
心の棘が、少しだけ柔らかくなった気がした。