運命の推し


話が進むにつれ、私はいつの間にか青年の恋を応援するようになっていた。


ラストで、青年と女子大生がお互いの想いを確認し、抱きしめ合っている場面でも。

私は目に涙を浮かべて、心から「良かったわねぇ」と思っていた。


映画を観終わって。

「平気?」
と日向が聞いてきた。


「やっぱり『推し』のラブシーンは、つらかったのかなって」


本気で心配してくれている日向に、私は嬉しさが込み上げてきて。

「また観たいくらいよ!良い映画だったわぁ」
と、満面の笑みで返した。


それから、
「今度は周くんのラブストーリーでも観る?」
と、からかってみる。

「……周くんはねー……」

日向は何故かため息をつく。


「演技が上手いほうとは決して言えないんだよぅ。なんて言うの、全部一緒なの。全部周くんでしかないの」

演技のことなんて全く分からないけれど。

日向の言っている意味は分かった。


「でも。周くん、今度ドラマに出るんだよ!雑誌の編集部が舞台でね、周くんの役は、主人公に報われない恋を抱くんだって」


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