運命の推し
推しの誕生日、当日
翌朝。
目が覚めたと同時に、強い吐き気を感じた。
トイレまで間に合わない!
そう思って、私は咄嗟に部屋のゴミ箱を手に取った。
どうしてかしら。
頭の中で思ったの。
「死にたくない」って。
せっかくの優大の誕生日だったのに。
私はケーキ屋さんじゃなくて。
美加子と、かかりつけの病院の中にいた。
入院も覚悟していたけれど。
とりあえず今日は、家に帰された。
そのことに少しホッとする。
自分の部屋で、美加子が仕事に行く前に敷いていってくれた布団に入っている。
……ひまねぇ。
いつもなら日向と「シー・ファンキーズ」の話で盛り上がっているはずなのに。
ひとり。
見慣れた天井をぼんやり眺めている。
「笑子ばあちゃん」
障子の向こうから、細い、遠慮がちな声。
「日向!?」
私は体を起こす。
まさか、日向の声なわけがないじゃない。
だってあの子、滅多に部屋から出ないはずよ?