運命の推し
「幸村さん」

田嶋さんは私を見て、片手を上げた。

それから「おいで、おいで」と手で招き寄せてくれた。


「幸村さん、診察?どうしたの?」

「たいしたことないのよぅ。ちょっとふらついたりしたら、娘がねー、病院行けって怖い顔で言うんだから」

「え?幸村さん、ひとりで来たの?」

「あー、娘は仕事だし。私、わりと近いところに住んでいるし」

「いやー、元気だわ!健脚!すごい!」

田嶋さんはそう言って、持っていた扇子でパタパタと私を(あお)いだ。


田嶋さんは近所に住んでいた奥さんで、私よりだいぶ若い。

まだ70代の前半だと思う。


田嶋さんの末のお子さんが、香奈子と同学年なこともあって。

私たちは会えば挨拶をし、話す仲だ。

まぁ、世間話程度だけど。


田嶋さんは今、お子さんの誰かと同居しているとかで、近所には住んでいない。


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