運命の推し

生きる意味



足腰が弱ってきたなぁ。

お稽古の帰り。

少しだけ赤くなってきた遠くの山々を見つめて、ぼんやり思った。




お琴のお稽古も、もう辞めようと思っている。

外出がつらい。


だけど、お稽古以外に外出する用事といえば、病院くらいだ。

唯一の外出が病院の通院なんて、私、考えただけでも寂しいわ。


でも仕方ないわね。




これまでありがたいことに、体は健康的だった。

張りのない毎日を過ごしていたけれど。


わりとアグレッシブに出かけていたほうかもしれないわ。




だけど。

入院は免れたとはいえ、服用している薬は増えたし。

またいつ体調が悪くなるかと思うと、ひとりで外出することにも躊躇(ためら)ってしまう。





「歳を取るって、大変なんだわ」
腰をさすりつつ、ひとり呟いた。




帰宅すると、家の中は静まり返っていた。

日向はきっと部屋に居るんだろう。


あとで会いに行こう、と思う。


まずは自分の部屋に行って、荷物を置いた。

お仏壇に向かって両手を合わせる。

「今、帰りましたよ」


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