運命の推し
私は少しショックを受けた。



何にも知らないじゃない。


その言葉の重さに、足がふらつきそう。



あぁ、そうよね。

今まで、私は日向と関わりをほとんど持たなかった。


そのことを香奈子はちゃんと分かっているんだわ。


「何も知らないけれど、知りたいのよ」

私は香奈子に訴える。

「あの子はまだ16歳なのよ。外に出て友だちと楽しく笑い合ったり、恋だって。これからの人生を明るく歩んでほしいのよ」

私の言葉に、香奈子の眉間のシワが深くなる。

「今の日向の人生が明るくないなんて、思わないで」

強い口調だった。

「決めつけないでよ!!」
叫ぶように言ったあと、香奈子は去って行った。




私はひとり。

そんなつもりじゃないのに、と思った。


ただ、私は……。









その夜、遅く。

眠れなくて、私は部屋の窓からぼんやりと夜の空を見ていた。


星のない空。

なんて寂しいの。



「笑子ばあちゃん、起きてる?」

日向の声。


部屋まで来てくれたんだわ。


「起きてるわよ」


日向が遠慮がちに障子を開けて、部屋の中に入ってきた。

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