運命の推し

「……今日は、ごめんなさい」

私は日向に謝った。

日向は頭を振って、
「笑子ばあちゃんは悪くないのに、私こそごめんなさい」
と言った。


少し、ホッとする。


「部屋から持ってきたの」
そう言ってスマートフォンにイヤホンを接続した日向は、私にイヤホンの片方を渡す。


耳には「シー・ファンキーズ」の歌。

『星の降る夜には』が流れている。


ふたりともしばらく黙って聴いていた。


優大の優しい声に、大丈夫だよって励まされているみたい。

心強くなる。

本当に寄り添ってくれているみたいね。



曲が終わって。

日向がふいに話し始めた。


「中学の時に、ライブに行く約束をしてた友だちがいたの」

「『シー・ファンキーズ』の?」

「うん。その子も周くん推しで、気が合ったんだ。でも……」

日向の顔が曇る。


「その子の家、厳しくて。ライブに行くって言ったら反対されちゃったんだって。ライブに行けないって言われた。私はその子と行くはずだったライブに、ママと行っちゃったの」


< 64 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop