運命の推し
「香奈子、やめなさい!母さんも、朝から大声出して……!」


美加子が私と香奈子の間に入った。



「あなたはどうなの?」
私は香奈子の目をまっすぐに見つめる。

「責任とるとか、とらないとか、そういう問題じゃないって分かってるんでしょう?」


香奈子は黙る。



私は日向を見た。

香奈子に抱きついて、泣いている。



「怖かったら、無理にとは言わないわ。でも覚えておいてほしい。世の中には怖いことだけじゃないってことを」

それから、
「でも、どうしても日向に頼まれてほしいことがあるのよ」
と付け加えた。


日向は私を見る。


「私の最後の姿に、挨拶しに来てほしいの。この世から旅立つ時には、日向にも見送られたい」



「え?」

日向は訳が分からない、という顔。
私と香奈子を交互に見ている。




「おばあちゃんね」
私の声がかすれた。




「おばあちゃんね、病気でね。もう、そんなに生きられないのよ」






< 83 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop