運命の推し
「何も、今、こんなタイミングで言わなくても……」
香奈子の声が震えている。

「……本当なの?」
日向は俯いた香奈子の顔を覗きこむ。

「……やだっ」
日向の目から大粒の涙がこぼれる。


「笑子ばあちゃんと、ずっと一緒にいたい……!『シー・ファンキーズ』の活動を、一緒に見守りたい!」


日向は香奈子から体を離し、私の服を掴んだ。

震える、華奢な手で。




「……死なないで」




消えそうな声。
小さな呟き。



だけど。

涙声が、家の中に響いた気がした。





「大丈夫よぅ」
私はにっこり笑って、日向の手をぎゅっと握った。


「おばあちゃんがいなくなっても、日向の心にいるから。心が、そばにいるから」



「やだ、やだ……」

日向の、か細い声。


いつの間にか私も泣いてしまっていた。


美加子も、香奈子も、鼻をすすっている。



細いひ孫の体を抱き寄せて、私はその背中を優しくさすった。


「おばあちゃんはね、日向のことをずっと見守っているから。そばにいるんだから。安心していいのよぅ」



< 84 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop