触れないで、杏里先輩!
私が返すとゆっくりと北川君は私の真上の手摺りに手を伸ばす。

近付いた距離に身体がビクッと勝手に反応した。


「ごめん、怖いよな。俯いてて」

そんな私を見て、何故か北川君が謝った。
私が謝らなければならないのに。

でもそれを分かっているのに、私は言われた通り顔を俯かせた。

視界には私のローファーと北川君の大きなローファー。

十センチ先の距離に北川君が立っている。

それを意識すると変に鼓動が速くなる。

でも今は恐怖は先程よりも感じない。

助けてくれたからだろうか。

北川君の存在が、心強いと感じる……。


「き、北川君、あ、ありがとう……」

面と向かって言うことだけれど、今は顔をあげられそうにもない。
でもお礼を早く伝えたかった。
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