触れないで、杏里先輩!
どう答えて良いのか分からず押し黙っていると、突然そこに指が見えた。
私のじゃない。

あとテーブル。

「顔上げて?」

私はいつの間にか俯いていた。

だがそれよりもだ。

目の前にある杏里先輩の長い指。

私の髪を掬い上げている。

それに気付くと、心臓が爆発したみたいにドッ!と大きく波打った。

私の髪を持ち上げていく杏里先輩。

私は目で追っていく。

釣られて顔が上がる。

するとフワリと目尻を優しく下げた杏里先輩の顔が見えた。


「初めて俺が美桜の髪に触れてるとこ、見れたね」

杏里先輩はまだ私の髪を離してくれない。

荒療治を続けるようだ。

肘をついて、私の髪を指で少し遊んでいるから。

私は動けない。
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