触れないで、杏里先輩!
「おはよ、美桜、北川君。今日から日傘か」

朝、駅から出てすぐ黒の日傘を差した私を見た杏里先輩が言った。

「……おはようございます。今日は暑いので」

私は傘の持ち手を見つめながら返した。
今日は五月だというのに真夏日のような温度になるらしく、流石にブレザーを脱いできた。

「確かに暑いね。もう俺、かなり前から半袖だから」

今日も一緒に来た北川君が会話に混ざった。

「俺も今日から夏服にしたよ」

相槌を返した杏里先輩。

未だ長袖の私は涼しげな格好の二人が羨ましくて、「良いなぁ……」と小さく呟いた。

最近は温暖化のせいで五月でも三十度近い気温になるから、熱中症にならないように既に半袖登校が許されている。

私は一年で夏が一番嫌いだ。
理由は単純、暑いから。

私だって半袖になりたい。
でも素肌を出すのは怖い。

だから私は毎年ギリギリまで長袖で過ごしている。
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