触れないで、杏里先輩!
「待ってて」


そう言うと杏里先輩は私の髪が痛くならないようにだろう、一歩私に近付いた。

今日は私達は立っているし、私達の身長差は三十センチ程あるから昨日よりは遠い。

昨日程では無いが、非常に近い。


「切って下さい!鞄に鋏ありますから!」

至近距離に動揺した私は急いで鞄を漁る。

すると杏里先輩が私を制止させるように鞄を掴んだ。


「ダメ。綺麗な髪だから」

この人、恥ずかしい台詞を照れることなく簡単に出す。
しかも笑顔で堂々と。

ドクン!と大きく反応する心臓。

全身が沸騰したみたいに熱い。

でも私の意見は却下されてしまったから、大人しく待つしかない。

杏里先輩の長い指が今日も私の髪に触れている。

私は杏里先輩を見たまま。
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