触れないで、杏里先輩!
「夏休み前までには美桜を完治させたい」

真っ直ぐした声が聞こえてきたが、動揺を抑えられない。


「ご、ごめんなさい……杏里先輩……流石にこれは、無理です……」

地面を見ながら拒絶した。

「俺も無理強いしすぎた、ごめん。花純、入れてくれない?」

杏里先輩が彼女を名前で呼んだのを初めて聞いた。
何故かズキズキ胸が痛い。

「うん、良いよ」

戸惑った表情で応えた花純先輩。


私達は一緒に帰った。
たまに二人の会話が雨音と雑踏で聞こえないせいか、距離感を感じた。

杏里先輩は駅前のコンビニでビニール傘を買って帰った。




『ただいま帰りました。明日はちゃんと傘を持ってきて下さい。』

いつもの帰宅報告。
いつもよりも今日は一文多い。

『おかえり。明日からずっと雨だからね。忘れないよ。』


これからはずっと傘を忘れないで下さいと心の中で思った。
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