触れないで、杏里先輩!
「ご、ごめん……立ち眩みかな……」


見つめ合っている絵になる二人は、恋に落ちる五秒前の構図に見えた。


「今日暑いから熱中症かもな。保健室に行こう」

杏里先輩の言葉に自分が呆然としていることに気付き、一先ず日傘を鞄に仕舞った。

「鞄持ちます!私も行きます!」

「ごめん、お願い。美桜は大丈夫?長袖着てるし」

杏里先輩は私に鞄を渡すと、花純先輩を抱えながら心配そうな顔を私に向けた。
その気遣いに嬉しくなった。

自分は大丈夫だと返すと、花純先輩の鞄も受け持った。

花純先輩の身体を支えながら廊下を歩く杏里先輩の背中を見つめながら考える。


先日躓いた時、私は避けられた。

それは私が気絶するかもしれないから。

私は花純先輩みたいに助けてもらえない。

触れることすら出来ないし、してもらえない。

そう考えると胸が痛くなった。
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