触れないで、杏里先輩!

『花純はご両親が車で迎えに来てくれるから安心して。』

電車に揺られている途中、杏里先輩からメールが入った。
どうやら私を送った後、保健室に戻ったらしい。

杏里先輩は優しい。


家に帰ると愛読書の漫画を開いた。
ヒロインは好きな男の子と手を繋いだり、幸せそう。

でも今の私はこれすら出来ない。
私はヒロインにはなれない。

漫画をこれ以上読む気にはなれなくて机の上に置くと、その隣に開いたままの鏡を覗き込んだ。

杏里先輩が結んでくれた編み込みの髪。

「可愛い……」

最近の私は鏡をよく覗いている。

襲われたあの日から鏡を覗かなくなった。

女の子で産まれた自分を呪った。

でも今は女の子で良かったと思える。

可愛くなりたいと思ってる。

杏里先輩に可愛いって言われたいと思ってる。

抱き止められた花純先輩を羨ましくなってしまった。

杏里先輩が保健室に戻ったことにモヤモヤしてしまった。

違う女の子に優しさを向けないでなんて理不尽で醜い感情があることに気付いた。


私、杏里先輩が好きみたい……
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