触れないで、杏里先輩!
月曜日。


「おはよ、坂井さん……なにかあった?」

朝一番、北川君に心配されてしまった。

「ありがとう。でもなんでもないから……」

「なにか悩み事があるなら相談に乗るよ」

笑顔を張り付けて否定したが、言われてしまった。

気を引き締めよう。


高校の駅に着くと緊張した。


「おはよ、二人共」

杏里先輩はいつも通りだった。
気にしているのは私だけ。
今日も北川君と仲良く話していた。

昇降口で北川君と別れると、いつものように私の教室に向かった。
髪を結ぶために杏里先輩はいつものように私の横の席の椅子を引っ張ろうと掴んだ。


「あと二十日で夏休みだね。今日も頑張ろうか」

私に笑顔でエールを送る杏里先輩。

この時間を終わりにしたくない。

でも今は一緒に居るだけでも辛い。

これは杏里先輩からすれば、ただのボランティア。

杏里先輩の好きな人は初恋の人。

そう考えると、急速に急激に空しくなった。

私は机に向いて俯くと口を開いた。


「もう止めましょう」
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