触れないで、杏里先輩!
私がそう告げると、杏里先輩がハッと息を呑んだ気がした。


「弱音は吐かないって言ってたじゃん」

強い声と、ガタンと横から物音が聞こえた。
どうやら杏里先輩が椅子に座った。

休日の二日間考えた。
この治療を終わらせるのが一番良いと思った。

「どうしてそう思うの?美桜、教えて?」

黙っている私を問い詰める杏里先輩。

この感情を伝えたところでどうにもならない。
だって杏里先輩が受け入れるのは初恋の人だけだから。

「俺がこの前、花純を振った時の言葉、関係ある?」

心臓は図星だと言わんばかりに跳ね上がったが、必死に隠した。

「違います。実は北川君にも治療の手助けをしてくれると提案されていたんです。北川君は同じクラスだし、家も近いので、北川君に手伝って貰った方が良いと思ったんです」

休日中に考えておいた嘘を並べた。
北川君を利用することを心の中で謝罪した。

「俺の役目は、終わり?」

弱くなった声に私は畳み掛けるように口を開く。

「それに思ったんです。こういうことって、好きな人と試すべきなんじゃないかって。実際皆私達が付き合ってるって勘違いしてるから」

これは本当にそう思う。

初恋の人が忘れられないなら私に触れるべきではない。

それが恩人に恩を返したい善良な気持ちだとしても。
< 231 / 239 >

この作品をシェア

pagetop