触れないで、杏里先輩!
本当は言いたくない……。

ずっと秘めていたい……。

でもこの人には絶対に近付いて欲しくないから話すんだと心に言い聞かせる。

俯きながら、私は震える唇を開けた。


「……中学に入る前の、春休み、友達の家から、家に帰ろうと、公園を、通ったんです……家までの、抜け道、だから……」

言葉にするだけであの時の恐怖が蘇り、声が震え、涙まで這い上がってきたせいで鼻の奥がつんとして、言葉が上手く出てくれない。

あの時、真後ろから聞こえた『可愛いね』と荒い息遣いで言った気持ち悪い声が近くから聞こえてきた気がして、益々震える。


「そ、そしたら、突然、後ろから、口を、塞がれて……む、胸を、さ、触ら「ごめん、もう良いから、分かったから」


必死に説明している途中、杏里先輩が苦しそうな声で遮ってきた。

顔を上げると杏里先輩はいつの間にか横を向いていた。

その横顔は苦し気に歪んでいた。

私が男性恐怖症になった理由は伝わってくれたようだ。
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