触れないで、杏里先輩!
心臓がずっと騒々しい。

私の髪の毛先を少しだけ掴んだようだ。

髪の毛が少し引っ張られた感覚が伝わってきたから。

それに気付くと私は思いきり身体をビクつかせた。

私の全神経が触れられた髪に集中している。

私は意識が遠のきそうになるのを、奥歯を噛み締めてなんとか踏ん張る。


「触ってるよ?目、開ける?」

「む、無理ですっ!」

即答で拒否すると、髪が解放されたようだ。
パサリと髪が落ちた音が聞こえたから。

きっと触れたのは数秒。
でも私にはそれ以上に感じてしまう程の時間だった。

恐る恐る目を開けると、ふんわりと優しく笑う杏里先輩と目が合った。

「充分進歩。少しずつ頑張ろ」
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