ノンセクシャル
店の駐車場に到着したが週末と言うことあり駐車場にはまさに鮨詰め、びっしり車が止められていてどこを見ても駐車出来そうにない、それを見越して正面の入り口とは逆の裏の駐車場から入ったが予想以上に混んでいた。
「めっちゃ混んでる」
「すっごい混んでるね」
「どうする?違う店にする?」
「私は大丈夫だよ、祐介は変えたい?」
「いや他も混んでると思うし少し待とうか」
 話ながらも駐車場を案内通りに回っていると入り口とは少し離れてしまうがちょうど一台分の駐車スペースを見つけた。少し止め難いが仕方がない、白いNISSAN車の前に行きギヤをRに入れてハンドル右にをきる。バックモニターで確認して後ろに下がりつつサイドミラーで微調整。エンジンをきる。
 「お疲れ様です!」桃子の方が先に降りる。ドアを閉めるのを確認してスマートキーで鍵を閉める。
「スマホ忘れた!」車越しに桃子が笑顔でこちらを見るので鍵を開けてあげる、桃子は素早くドアを開けスマホを取り出しドアをドンっと閉めた確認して鍵を閉めた。
 桃子が右手をこちらに出す、入り口までは数メートルくらいしか無いのに繋ぐのかと思いながらも左手で握る。暖かい。
 店の外観はは磨りガラスになっているので外からでも混んでいることが分かった。家族連れ。カップル。友人関係。仕事の仲間。様々な人がごった返していた。入口は店の外まで10人くらいの行列が出来ていた。だがどうやら入れないから外にいる訳ではないタバコを吸ったり人混みから逃げて来てる人々だ。
 それを交わして入店する事にした。避けて通るには狭かったのでどちらからともなく手をパッと離した、入口のドアを開けてあげると暖気が漏れる。桃子はその暖気を気にせず先に入るそのあと閉めると同時に私が入った。人。人。人。冷静に席へ誘導する店員。レジの奥にはカウンター席でさらに奥は見る事は出来ない。
 混雑時の名簿に尾形と私の名前を書き、テーブルの欄に丸を付け人数の所に2名と書いた。
「座る?」
「座れる?」
 待つスペースもあるがどこまでが同じ集団なのか区別がつかないほど大変混み合っていた、寒い中あえて外で待つのも分かる気がする。
「あそこ空いてるよ」
 桃子が指を指した先には1人座れるくらいのスペースが壁掛けのベンチにあった。
「桃子座っていいよ」
「ありがとう!」
 そこにある一人分の席を譲ることにした桃子は隣の人に当たらない様に、スカートを踏まないようにそっと腰を掛けた。右隣には学校帰りだろうか制服を着た女子高生3人組とその反対側には家族で来ているのであろう40歳くらいのお母さんが座っていた。
 もちろん彼氏だから譲ったというのもあるのだが、女性に挟まれるのになんとなく抵抗があったというのもある。恥ずかしいとか照れ臭いとかそういうことではない、勿論性差別的なことでもない。何となく女性だけが座るその場所に腰をかけることが嫌だったのだ。
 桃子はスマホをいじり出した、おそらくTwitterかInstagramだろう。予想は当たっていた、画面のはしから少し見えたのはInstagramのタイムラインだ。
 私もポケットからスマホを取り出す。人といる時は基本的にスマホを使うのは好きでは無いのだが、この状態では仕方ない私の選択肢にはこの待ち時間を潰す方法が他に思いつかなかったのだ。フェイスIDで素早くロックを解除して紫のアイコンのInstagramを開いた。お笑い芸人が番組の宣伝のためアイドルと撮った写真、友人の姪っ子の写真、インスタグラマーの海をバックに思いっ切りおしゃれを決めた写真、次々と高評価ボタンを押していく。
 スマホ越しにはスマホを眺める桃子、桃子の右側にいる女子高生もスマホをみながら横の友達と話す。同じ制服の子が2人が並んで座り1人が立ちながら話している。桃子の隣の子はやけにスカートの丈が短い、わざと内側に織り込んでいるのであろう。そこには傷ひとつ無い真白な太もも絶対領域と言うやつが私の視界に圧倒的な存在感を放っている。灰色の制服、近くにある私立の商業高校の生徒だろう。少し動いたらその灰色の短く折りたたまれたスカートから下着が見えてしまいそうだ。
「休んでから見れてないよね」
「先週は元気そうだったのにねぇ」
 何の話だろう、そんなことより少し動く度にスカートが揺れて下着が見えそうで怖い、普通の男性だったらこの状況はとても幸せなチャンスな筈だろうが私はこのときは怖いと感じた。それは私の様子に気付き機嫌を損ねる可能性のある彼女が目の前にいるからというのもあるのだが、
 【私には深い悩みがある】
 それは普段生活する分に支障をきたすことの無いのもの。だけど時々の雄的幸福パンチで発動してしまう。   
 最近ようやく周りの反応を見て少しづつ理解出来てきたた事なのだがどうやら私は恐ろしく性的反応が鈍いのだ。どうも女子校生の純白な肉々しい淫乱なふとももを見てもまず勃たないし特に何も感じることは無いのだ。冷静に今起きている現状を判断していて太ももを太ももと認識するだけで心は空なのだ。
 それは彼女の機嫌を損ね今日から数日間無視をされ続けることよりも辛いことで雄として切ない気持ちになる。まるで自分は人間の男、「動物のオスではない」と言われてる気がして絶望的な孤独を感じるのである。
「4名でお待ちの石井様!」
 店員が語尾の上った声でアナウンスをかける、桃子の隣にいた子供連れの女性が立ち上がった、すると隣に座っていた子供ふたりも立ち上がり外でタバコを吸っていた父親を呼びにいった。窮屈だった所に大きなスペースが出来た。
「座んな」桃子が上目遣いで小さな声で呟いた。私は小さくうなづいて桃子の隣に座った。
「結構早いかもね」
「そうだね、あんまり待たないかもね」
 そう言って桃子は小さく細い腕を私の腕に組んできた。かわいい。かわいいとは思うのだ。さっきの上目使いも腕を組む仕草も桃子に対して愛おしと感じることは沢山ある。すこしだけ人間に戻れた気がした。
「見て、この写真すごくない?」
 桃子はスマホに写る、何処かの国の海辺の写真。とても綺麗なターコイズ色だ。。
「すごく綺麗、行ってみたい」素直に思ったのでそう伝えた。
「海行きたい!もう冬は飽きちゃったよ」
「海行っても入らないじゃん」
「いいの、水着着て見てるだけでも楽しいの!夏行こうね!」
 見てるだけなら冬でも良いのではないかと思ったが、この刺すような凍てつく冬の寒さには飽々していたので夏が待遠しくなった。
「3名でお待ちの篠崎様!」
 反対側にいた女子高生たちが定員に案内され席に向かうため離れていく。次は茶髪の私達よりも若そうなカップルが桃子の隣に座った。正面にいるくせっ毛の男性も座ろう思ったのか少し前のめりに動いたが、カップルが先に座ったので諦めた様子だ。その姿が私には滑稽に見え笑そうになった。

「2名でお待ちの尾形様!」
 語尾の上った定員の声に呼ばれる、そっと立ち上がる、桃子はスマホをポケットにしまい右手を出したその手を引き上げると桃子も立ち上がる。そのまま手を繋ぎ店員についていき席についた。桃子は直ぐに手を繋ぎたがる、スキンシップが多い子なのだと思っていたが周りの友人達に聞いたところ案外一般的で多数派であり世間からしたら普通らしい、手を繋ぐことは嫌だと思ったことは一度もない。ただ手を繋ぎたいと思ったことも一度も無い。もし桃子から手を出してくれなくなったら二度と手をつなぐことは無くなってしまうのかもしれない。
 定員の案内で席に着き桃子は巻いていたマフラーを外しつPコート脱ぎ長椅子の空いたスペースに置いた。店の暖房はむさ苦しいほど効いていて私もダウンを脱ぎ椅子の端に置いた。  
 桃子は私を見ながらが微笑む。
「なに食べようかな」
 彼女と一緒にいればとても楽しいし幸せだと感じる、ただそれ以上を求める事が出来ないのだ。
「決まった?」
「先に頼んでいいよ」
 そういうと慣れた手つきで席の端にある注文用の電子パネルをとり注文を始める。その間に私は醤油皿を2人分取り分ける、箸も2人分取り分ける。
 「ありがとう!」そういうと注文用の電子パネルを渡してくれる。イカを食べよう。あとマグロそう考えながら、電子パネルを操作していると桃子にお茶を渡された、やられた、完全に忘れていた。いや忘れた理由ではないパネルを受け取るまでは覚えていたことなのだ。「ありがとう!」言いながら自分が気を利かせることが出来なかったことを悔いていた。愛なのか意地なのか素直に甘えることが苦手なのである。
 頼んでいないサーモンとエビが届いた。桃子の注文した物か、テーブルに置かれる。
「わ〜美味しそう!![#「!!」は縦中横]」確かに美味そうだ。朱色に輝くサーモン。赤い尻尾のついた大きな海老。次頼むことにしよう。
 「さっきさ私の隣にいた女子高生のこと見てたでしょ?」半笑で本気とも冗談とも取れる顔でこちらを見る。
 「え」見てた。確かに見ていただがもちろん性的な目で見てはいない。困った、なんて答えるのが正解なのだろう。正直に女子高生の太ももを見て勃起するか試していたなんて答えたら今日の生魚達は無味のナマモノになるだろう。だが見てないと答えてもあからさまに嘘をつく事になり口論の材料になる店の温度をじわじわと下げることになりかねない。
「見てたよ!」一か八か
「ふーん」あからさまに不機嫌そうだ。人間らしい、20代前半のカップルらしい、会話のやり取りが出来ていることに安堵したがそれどころでは無い
「学校帰りに寿司なんて最近の女子高生はお金持ちだなって思ってさ」
「彼女が目の前いるのに見すぎだよ!」
「ごめんって」笑顔がひきつる
「良くないよ!桃子だけでしょ」かわいい。膨れた真剣な表情は恍惚と美しかった。
「ごめん」イカとマグロと茶碗蒸しを注文して静かに電子パネルをテーブルの端に戻した。
「気をつけな!」真剣な表情の中から零れる笑顔にはそこまで怒ってはないんだなと安堵した。その後は多種多様な寿司ネタ。他愛のない会話で盛り上がった。
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