愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 唖然とする私に気づいたらしい。

「ああ……。外食ばかりだったから」
 綾星さんは、恥ずかしそうに苦笑する。

「そうですか」
 といっても、私がいたころも彼は家では食べなかった。
 私がいてもいなくても外食なのね。

「君が朝食まだなら、どこかでとも思ったんだ。あとで一緒に買い出しに行こう」

「あ、はい」

 一緒に買い物に行くなんて、何というか。
 そんなこと三年間一度もなかったのに、最初からそんなに無理して大丈夫なのかしら。

 コーヒーメーカーに豆をセットする彼は心なしか緊張しているように見えた。

 今の私は少し意志が悪いから、そんな彼を見るのはちょっと楽しい。
 彼に背中を向けて、密かにクスッと笑う。

 初日はこんなふうに、私と彼の決戦のひと月が始まった。

 あくる日も。まずは朝食を一緒にとるところから一日がスタートする。

 五條家のハウスキーパーさんから聞いているので、私は綾星さんの食事の好みはわかっている。
 好き嫌いはない代わりに、朝はあまり食欲がないらしい。

 今朝のメニューは豆腐とワカメのみそ汁に玄米がゆ。付け合わせはフレーク状にした焼き鮭と梅干しと明太子を少しずつ。食材はすべて、昨日あれからふたりで買い物に行き、綾星さんと相談しながら買ったもの。

「おはよう」

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