愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
電子決済画面を睨み、最後のチェックをクリックする。未決はこれが最後だ。
「よし、終わった。これで大丈夫か?」
「お疲れ。後は俺がなんとかする」
透が力強く親指を立てる。
「悪いな。急ぎは遠慮なく連絡くれ」
「了解。それでどうなんだ?」
「そうだな。今は、なんというか、星光の手料理が毎日食べられるだけでホッとする」
それが今の正直な思いだ。
「がんばれよ」
「ああ」
星光が帰ってきて一週間、毎日が嘘のように楽しい。
彼女の手料理で始まる朝と夜。何を食べても泣きたくなるくらい本当においしい。味噌汁一杯でも違う。聞けば俺が好きな煮干しの出汁だった。
俺が好きなものを常に気にかけてくれる。
悪いなと言うと、彼女はにっこりと微笑む。
『綾星さんは仕事が大変なんですから、気にしないでください』
結婚間もない頃、星光の手料理を初めて食べた時は驚いた。
あの日は土曜で、寝不足が続いていた俺は午後になってもまだ死んだように寝ていた。透からの仕事の電話で起こされて、透がマンションに来て。俺の書斎で話をするうち、いつの間にか夕方になっていた。
コーヒーを出してくれた星光が言った『食事の用意をしましょうか?』に、遠慮のない透が『すみません、お願いします』と勝手に答えた。