愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 ケラケラと五月は笑う。

『氷室さんと楽しそうーに飲んでました。じゃあねー、専務』
 プチッと電話が切れる。


「ったく最後まで、なんなんだあいつは。気にするなよよ綾星」

「ああ、大丈夫だ」

「ってか、氷室って誰なんだ?」

 おい透、早速自分が気にしてるじゃないかと突っ込みたくなるが、「氷室仁だよ」と教えてやった。

「ちょっとな、うちが世話になったことがあって。飛翔さんと親しいらしい」

 氷室グループの人材派遣や警備会社の名前を出すと、透もすぐにわかったようだ。

「あのイケメン御曹司かー。そういや彼、会員制のレストランバーもやってるらしいな」

「そうなのか?」

「ああ。彼の友人しか入れないらしい。確か氷の月だから月の氷だから、そんな名前だったと思う」

 ふぅんと、頷きながら何やら胸騒ぎがした。

 会員制のバーとやらに、きっと星光は入れるだろう。
 そして俺は入れない。

 嫌な予感というのは案外当たるものだ。

 その時はまだ予感が疼くだけだったが――。


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