愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 マンションに帰ると、食欲をそそるいい匂いがした。

 メニューは偶然にもパエリアだった。

 昼間思い出して久しぶりに食べたいなと思っていただけになおさらうれしくて、ひとりで平らげる勢いで食べた。

「予定通り来週一週間は休みを取れたよ」

「そうですか。じゃあ予約はそのままで大丈夫ですね」

 宿の予約は彼女がとってくれた。あさっての日曜出発してまずは木曽福島に一泊するという。

「ああ。よろしく。楽しみだなぁ。星光、明日買い物に付き合ってくれないか? 旅行に着ていく靴とか服装とか一緒に見てほしいんだ」

「はい」

 にっこりと頷く星光の、微笑みの奥にある本心は見えない。

 揉めたくないんです。後味も悪いですしと彼女は言っていた。

 考えてみれば、不愉快そうにしている彼女を見た記憶がない。俺がろくにあいさつも、返事もしなくても、争いを避けるように視線を落とすだけだった。

 星光をもっと知りたい。
 そして星光にも俺を知ってほしい。

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