愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~

「へえすごいなぁ! 実際に見るとやっぱり違うな。これが中山道か、時計が止まったみたいじゃないか」

 綾星さんは感動しきりのようだ。

 中山道木曽路はずっと山の中だ。舗装されていない旧道を歩いていると、その先に小さな宿場が見えてくる。馬籠宿や妻籠宿だけでなく、この道にはところどころに小さな宿場があって、時の流れを忘れたように昔のまま残っている。

 ひょっこりと草鞋を履いた人が宿から出てきてもおかしくないような、タイムトリップを味わえる。コンクリートの都会とは別世界だ。

「星光がこういう旅を好きだなんて、想像もしていなかった」

「私こそ、綾星さんはもっと開発されたリゾート地が好きかと思っていました」

 正直にそう言うと、彼は「俺たちはお互いを知らなすぎだな」と笑う。

「学生のころ、俺はよくひとりで山に行ったんだ。ヤマメとかイワナとか渓流釣りにね」

「え? そうなんですか?」

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