愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 鍋奉行ならぬ鉄板奉行とでもいうのか、キッチンの収納から一度も使っていないホットプレートを取り出した綾星さんは満面の笑みである。

 旅行以外にも、またひとつ楽しい思い出ができた。



 月曜日。

 玄関まで見送るのはやり過ぎのような気がして、キッチンから声をかけた。
「いってらっしゃい」

「行ってきます」

 彼は名残惜しそうに私を見つめてから、軽く右手を上げて廊下へ消えた。

 ほっこりと幸せ漂う夫婦の朝。
 うっかり永遠を願ってしまいそうになる。

 いけない、いけない。

 簡単に掃除を済ませて出かける準備を始めた。
 面倒な用事が待っている。

 この日が来るのが憂鬱だった。
 それは変わらないけれど、今の私には力が漲っている。ひと皮むけて強くなった感じがするし、負ける気がしない。


 よっし!

 大きく息を吸ってから扉を開けた。
 朝十時のカフェは空いている。店内を見回すまでもなく彼女を見つけた。

 五條美々子。

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