愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 私の髪に手を触れて、ゆっくりとキスをして。名残惜しさが目に見えるような表情のまま溜め息をついて。
 まさかとは思うけれど、本当にサボりそうな雰囲気である。

 仕方がないので両手で拳をつくり「がんばって」と言うと、綾星さんはようやく笑顔になって扉を閉めた。

 子どもかっ!
 まったくもう、この温度差はどうしたものか。

 綾星さん、私が出て行ったあと大丈夫なのかしら。

 旅行は私も楽しかったし、こんな日が毎日続くなら悪くないかも、とちらりと思ったりもした。

 でもね。三年は綾星さんが思っている以上に長いんです。

 流されるほど、私は素直じゃない。

 今になってあなたがこんなに優しいのも、いざとなると惜しくなったからでしょう?
 花菱というバックボーンを失うのが怖くなったからですよね。

 どんなに愛を囁かれても、そう思う気持ちが払拭できないんです。

 もし愛が形になって見えるなら違ったかもしれない。
 私を愛しているという言葉が確かなものだと見えたなら、信じられたかもしれない。

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