愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 でも、見えないんです。

 私はあなたの愛情を、無条件に信じるなんてできない。
 楽しさに溺れるほど子どもではないから。

 テーブルを拭きながらそんなことを考えているとスマートホンが音を立てた。

 氷室さんからのメッセージだ。

【メモ預かったよ。昼には店にいる。もし出て来れるなら、話をしよう】

 よかった。
 早速行くと返事をする。

 不貞の事実がないのはあの場にいた兄が証明してくれるから心配はないとはいえ、氷室さんに迷惑をかける可能性もある。直接会って謝りたい。


 氷の月は夜のみ開店するバーである。

 案の定closeの札が掛かっているけれど、扉を開けると氷室さんはいた。
 店は彼だけでなくグループの客がいる。女性ばかり五人、年齢はまちまちで一番年上の女性はおそらく七十代。

「うちの社員たち。ハウスキーパーの会社を始めたんだよ」

 氷室さんは名刺をくれた。
 いったい何種類の名刺を持っているか、思わず笑ってしまう。

「すごいですね、肩書きが多すぎて覚えられません」
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