愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
「どうかした? うまくいってないのか?」
「いや、毎日楽しいよ。――俺はね」

「〝俺だけ〟なのか」
「多分な」

 相変わらず星光は優しいが、心を開いてくれているとは言い難い。楽しそうではあるし、嫌がってる様子はないけれど、それだけだ。

 好きだとも愛しているとも、もちろん言ってはくれない。

「いつなんだ? もうそろそろ約束のひと月になるんだろ?」

「正確な日にちは話していないからなぁ、あと数日だよ」

 どんよりと暗い気持ちを引きずりながら外を見ると、歩いている女性が星光に見えた。

 ん?
 ついに星光の幻が見えるようになったかと思った。
 それにしても似ているなと、じっと見ていると。

「あれ? 星光さん?」
 同じ女性を見て、透がそう言った。

 透にも見えるのだから幻じゃない。あれは星光だ。
 思わず車を止めさせた。

「透、先にこの辺でランチでもいいだろう? 星光を誘ってみる」
「はいはい」

 車を降りて、急いで星光の後を追ったが信号に阻まれた。

 通りの反対側を歩いている彼女は、路地を曲がっていく。
 後から来た透が追いついたのと、信号が青に変わるのが同時だった。

「そういえば、確かあの先だったような」
 歩きながら、星光の進む先を見て透が首を傾げる。
「何が?」

 星光が見えなくなる前に電話をしようかと、スマートホンを取り出した。

「氷の月だよ。氷室さんのバー」

 氷室?

 電話を掛けようとした手が止まる。
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