愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
「別居したいと言われたよ」
そっかと俺の肩を叩いた透は「でも、一歩前進だな」と同情したように苦笑いを浮かべる。
「別居は前進なのか?」
「離婚は回避できたんだから、前進だろ?」
まあそうだよな。
俺もそう思って受け入れた。一週間後から押しかけるつもりだし。
「あ、そうそう。星光が自分からGPSの腕時計をつけると言ってくれたんだ」
「へえ。それはすごいな。綾星、お前相当信頼されている証拠だぞ」
「だろ?」
そうだよな。俺を嫌いなら絶対につけないはずだし。
「よかったじゃないか、安心できるし。まぁがんばれよ」
「ああ」
透が部屋を出て行ってから、あらためて思い返した。
多分、彼女に嫌われてはいないと思う。
俺を嫌いなら、キスする時だってあんなふうに俺を受け入れたりしないはずだ。
だってそうだろう? 星光は俺の背中に手を回す。
でも悲しいかな、星光が俺へ向けた最後の優しさだという可能性も、否定できない。
振り返って考えればずっとそうだった。
不機嫌を隠そうともしない俺を、彼女は淡々と受け流してきた。今だってもしかしたら俺に合わせているだけかもしれない。
星光は優しいから。