愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
振り返ろうとした刹那、「星光!」と大きな声に呼ばれてまた前を向いた。
「綾星さん?」
必死の形相で走ってくる彼にそのまま抱きしめられる。
「一体……」
「よかった。よかった無事で」
どういうこと?
振り返ろうとすると頬をつかまれた。
「見るな。星光は見なくていい」
私の後ろで何が起きているのか。人通りは少ないけれど、悲鳴と「救急車!」という叫び声がして辺りが騒然となっている。
「星光、そのまま歩いて」
私の手からスーツケースを取った綾星さんは、私に振り返るのを許さないという風にぴったりと脇に立って横断歩道を渡っていく。
その場から十メートルほど離れたビルの影まで来てようやく立ち止まり私から体を離した。
どこからか救急車が近づいてくる音がする。
「何があったんですか?」
怖くて振り向く前に聞いてみた。
「美々子が……。美々子の母親が怪我をした」
「え?」
そこでようやく振り返った。