愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 氷室さんが「あそこにいる女性三人はうちの社員だ」と教えてくれた。
 透さんと一緒に美々子を取り囲んでいる三人の女性たちは、ラフな服装だったりパンツスーツだったりと服装は様々だが、みな緊張感に満ちている。まるで私服の警察官のようだ。

「綾星、星光は引き受ける」

 兄にそう言われた途端、私を抱く綾星さんの手に力が入る。

「大丈夫だ。迎えに来てくれれば返すから」

 少し悩んでから、綾星さんは意を決したように頭を下げた。

「わかりました。では星光をよろしくお願いします」

 私に向かって、「迎えに行くから待っていてほしい」と囁いた彼は美々子がいる方に走っていく。

「伯母さまは……」

「心配ないよ。命に関わるような傷じゃない」
 そう答えてくれたのは氷室さんだった。


 私は兄の車で、ひとまず実家に行くことになった。

 別居をするつもりでガラガラ引いてきたスーツケースを、兄は何も聞かずにトランクに入れる。
 なぜスーツケースなのか疑問だろうに。

「じゃ、俺はあっちを見届けてきます」
「ああ、頼むな」

 氷室さんとはそこで別れた。


「お兄さま、いつからいたの?」
 車に入ってすぐ聞いてみた。

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