愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 全てを円満に解決できるまで、後もう少し。

 兄と父への報告は失敗できない。
 兄が何も言ってこないところをみると、兄の耳には入っていないに違いない。
 綾星さんは探さないでという私の頼みを聞いてくれたようだ。というか、あの人にとってはどうでもいいのだろうけど。

 とにかく、父と兄を怒らせないようにしないと厄介なことになる。
 幸せになるための離婚だというのに、揉めて台無しにはしたくない。このまま傷つけ合わず、穏やかに済ませなければ。

 紅茶をいれて、紙袋からマカロンの包みを取り出した。

 軽く触れただけで壊れそうな繊細なマカロンを、慎重に噛む。じわじわとピスタチオを含んだ濃厚なクリーム広がって、口の中が幸せでいっぱいになる。

 そういえば……。

 いつかのパーティで、綾星さんは私にデザートを取ってくれようとして聞いてきた。

『どれがいい?』

 あのとき私はオランジェットを選んで、彼が自分用に取ったのはピスタチオフロマージュだった。

 最後にもう一度くらい会う機会はあるだろうから、そのときには買っていってあげようか。

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