愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 懐かしいワンシーンを思い出しながらスマートホンを手に取り、ゆっくりと深呼吸をする。

 アドレス帳から兄を選ぶ。
 呼び出し音三回。留守番電話サービスに録音するつもりでかけたのに兄が出た。

「星光です。今大丈夫?」
『ああ。どうした?』

「あのね、お兄さま。私、離婚することにしたの。理由はあとで会ってから話すわ」

『――それは、事後報告なのか?』

「いいえ、正確にはまだよ。離婚届にサインをして綾星さんに渡したの」
 兄は少し間をおいて『わかった』と答えた。

「あの、お父さまには……」
『俺から伝えておくよ』

「ありがとう」

『忘れるなよ、星光。俺はいつでもお前の味方だ』

 電話を切ってホッと胸をなで下ろす。

 兄はいつだって私に優しいが、過保護すぎるところがある。
 私の結婚生活かどんなものだったか知ったら、兄は彼を闇に葬ってしまうかも?

 笑おうとしたけれどやめておいた。あの兄ならば十分ありえるだけに笑えない。

 怖すぎるのよお兄さまは。今までだって。

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