愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
「なにがダメなんだ?」
「座っちゃいけないの」
 そう言って綾乃は母娘に背中を向けた。

「ん? 座るだろ普通」
「だめなの。ああいうシフォンのドレスはかわいいけどシワになりやすいのよ。だから移動中の車以外はなるべく座っちゃだめなの」

「へえ。そうなのか」
「星光さんが教えてくれた」

 綾乃は俺を睨んだあと、友達を見つけたらしく奥へ行ってしまった。

 そういえばとドレス姿の星光が脳裏に浮かぶ。

 俺が部屋を出てリビングに行くと、彼女はいつもドレスを着て立っていた。
 三年間。パーティには必ず彼女と参加したが、ドレスを着て座っている彼女を見た記憶がない。

 思い出すのは、華奢でありながら柔らかい曲線美の影。ファッションモデル顔負けの完璧な後ろ姿の彼女。

 そして。星光は一度も俺を待たせなかった。

「五條さん、奥さまは?」
 声を掛けてきたのはメインバンクの頭取夫人だ。夫人の相手はいつも星光に任せているので、言葉を交わすのは久しぶりになる。

「すみません、妻は用事がありまして」
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