愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 すらりと背が高くて胸板や腕に程よく筋肉がついている。九頭身とバランスもよく、姿勢がいいし足が長いから惚れ惚れするほどスーツが似合っている。

 旧財閥系五條一族の御曹司だけあって、育ちの良さが背中からもにじみ出るかのよう。二十九歳とは思えない風格まである。シャープな顎のラインにすっきりとした襟足も、相変わらずきれいねとしみじみ思う。

 見納めかと思うと尚更ね。

 視線を感じたのか、彼は目の端で私を見る。

「なんだ?」

 今夜も疲れているらしい。冷蔵庫からミネラルウオーターを取り出して飲む彼の目元には、青ずんだ陰りがある。
 そんな彼にこんな話を振るのはどうなんだろうと思わなくもないけれど。気にしていてはいつになっても言い出せない。

 すでに一週間はタイミングを計って待ったのだ。

「すみません。お願いがあります」

 私は用意しておいた紙を、彼に向けてテーブルの上に置いた。

「提出したら連絡ください。それまでは誰にも秘密で、私を探さないでくださいね」

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