愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 縁談があった時の記憶は鮮明に残っている。

『星光、見合いの話がある』
 兄が写真と身上書を持ってきた。

 私がそんなふうに写真を渡されて、具体的に見合いの話を聞かされたのは初めてだった。

 それまでも縁談はあったようだけれど、父と兄が断っていたらしい。

『お兄さまが選んだなら、いい人なんでしょう?』
『ああ、保証する。真っ直ぐな、いい男だ』

 正直言うと、写真を見て私はひと目で彼を気に入っていた。

 彼は父に連れられて行くパーティで時々見かけるすらりとした素敵な人で、特に断る理由もなかった。
 むしろ楽しみにして当日を迎えたくらい。

 恋愛の経験はないけれど、こんなに素敵な人と結婚できたらそのまま恋に発展できるに違いない。新調した振り袖を着て、私は薔薇色の結婚生活を夢に抱き、見合いに臨んだのだった。

 場所は料亭の個室。
 間近で見る綾星さんはうっとりするほど素敵で、帯に締め付けられた胸が苦しそうに高鳴っていたのをよく覚えている。

 食事が終わり、私と彼だけが部屋に残って少し話をした。

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