愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
「そうですか。ちょうど良かったです。合い鍵、お渡ししておきますね。では、失礼します」
「あ、ちょっと。急ぐのか?」

 え? タクシーを待たせている以外には、急ぐ用事はないけれど。

「なにか?」

 もしかしてもう二度と来ないと思っていたのだろうか。

「すみません。もう来ませんから安心してくださいね。あ、離婚届出してくださったのですか?」

「い、いや、そうじゃないんだ。君と話をしようと思って」

 彼は眉尻を下げ、慌てたように身を乗り出す。

「はい?」

「座ってくれないか? あ、コーヒーをいれようか」

「コーヒーは今飲んだところですから私は結構ですけれど、入れましょうか?」
「いや、いい。それならいいんだ」

 ずいぶん神妙な様子。一体何なのか。

 もしや、いきなり再婚?
 それとも花菱の父への説明を相談されるとか。いずれにしても最後なので話くらい構わないけれど 、なんとなく彼の様子が変である。

 いつものような覇気がない。

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