愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 まるで死神にでも生気を吸い取られたような綾星さんは、エスコートでもするように私のために椅子を引く。

「ありがとうございます」

 向かいの席に腰を下ろした彼は、ますます神妙な顔になる。

 あ。もしかして慰謝料の話?
 それなら……。

「理由を聞かせてくれないか?」

「理由……ですか?」

 なんの?

「どうして離婚なのか」

 え? それを聞いてどうするのかしらと、首を傾げた。

「もしかしたら、誤解があるのかもしれないと思って」

「何をです?」

 理由なら、いくらでもあげられる。
 でも、どれについての誤解があるというのでしょう?

 結婚式の誓いのキス以外、妻に触れようともしなかったとか。朝の挨拶すらスルーされるとか、他に好きな女性がいるとか?

 彼は「もしかして」と。とても言いにくそうに、深刻な顔をしてじっと私をみる。

「あの。う……浮気を疑っているなら、俺は何もしていない」

「えっと。何もしていないというのは」

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