愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 まさか、こんなふうに使うことになるとは思っていなかったけれど。

「い、いててててっ」

「綾星さん、冗談も大概にしてください。三年ですよ。三年もの間、あなたはたった一度も私に触れるどころか、愛を囁いたことも、誕生日にプレゼントをくれたことすらない。私には、全く興味がなかったでしょう?」

「で、でも」

「寝言は寝ているときに言ってくださいね」

 ついでにみぞおちに肘鉄を食らわせて、悶絶する彼を置き去りにして私はマンションを後にした。


 待たせていたタクシーに乗ってため息をつく。

「はぁ」

 最後まで冷徹なままでいてくれれば、いっそ清々しい思い出になっただろうに。最後の最後であれはない。

 離婚したくないですって?
 どの口が言います?

 離婚届を渡したあの時ですら冷ややかな一瞥を向けただけじゃないの。花菱の権力が今になって惜しくなったのかしら。

 憤りのため息が止まらない。
「はぁ」

 走り出した途端タクシーの運転手が「あのぉ」と不安げに振り返る。

< 45 / 211 >

この作品をシェア

pagetop